【090111】阿部浩巳さんの発言

◎前編


◎後編

司会(田浪):…阿部浩巳さんに今日は来ていただきました。阿部さんは国際人権法の立場から、今回の事態について、とくに占領下におけるパレスチナ人の立場、それから帝国の権利などについても、言及していただけるかと思います。よろしくお願いします。
阿部:どうもありがとうございます。私の話は四点にわたっていたします。最初が占領について、二つ目が封鎖について、そして三つ目が今回の軍事侵攻について、そして最後に取るべき法的な対抗策。こういう四つについて、一つづつポイントらしきものを紹介したいと思います。
 まず一点目の占領についてなのですが、ガザ地区についてはご承知の通り、今回のことを報道するなかで、すでに占領が解かれているのではないかと言われるようなこともあります。しかし国際法的には、ガザ地区は依然イスラエルによる占領状態にあるということには、間違いはございません。物理的にそこに軍隊が駐留しているということではなく、そこに住んでいる人の意思に反して、実効的に支配しているかどうかということが、占領かどうかを分けるメルクマールになりまして、したがってガザ地区は、ヨルダン川西岸と同様に占領状態が続いているということには、まったく疑いがないということです。
 この占領は、ご存じの通り一九六七年から始まっているわけです。実は国連が人権保障活動に、本格的に取り組み始めたのは一九六七年からでした。国連が出来たのは一九四五年ですが、人権問題については国連はひじょうに微温的、生ぬるい態度をとり続けていたわけです。しかし一九六〇年代に入って、多くの発展途上国が国連のなかに参加してきたことによって、政治的な状況が変わり、一九六七年から初めて、国連は人権状況を監視し始めるようになったわけです。
 一番最初に監視の対象になったのは、南部アフリカでした。南アフリカ、ローデシア、ナミビアといったところが、アパルトヘイトの名のもとにあるということで、国連の監視の対象になって、そしてモニター、監視をするようになった。二番目に取り上げられるようになったのは、イスラエル占領地域でした。一九六八年、六九年から、国連の監視の対象になりました。そして三つ目に取り上げられたのは、一九七四年からですが、チリ、ピノチェトのチリの事態でした。この三つの事態が国連の一九六〇年代から七〇年代にかけての最も憂慮すべき人権状況であったわけです。
 このうち南部アフリカ、南アフリカの状況は一九九〇年代に入って政権の変更などがあって、国連の監視対象ではなくなっています。チリもまた政権の変更等によって、国連の監視の対象ではなくなりました。唯一残されているのはイスラエル占領地域であるわけです。国連が当初から監視の対象としてきた地域が、依然として占領状態が続き、まったく変わりのないまま国連の監視が続いているという状況であるわけです。
 国際法的には、この占領は単なる違法ということを超えて、アパルトヘイトとして、偽装された征服ということで、もっとも法的に非難に値する違法行為という分化ができる段階に来ていると思います。
 二点目ですが、二〇〇八年の一月から、完全に封鎖される状態となりました。このガザ地区が封鎖されている状態について、これにともなってもうすでにその以前からも、鵜飼さんからもご紹介がありましたように、さまざまな違法行為が行なわれていたわけですが、とりわけ封鎖によって深刻化している問題は、健康・食料・医療等にかかわる問題ですが、これはイスラエルの遵守すべき文民条約、一九四九年の文民条約という条約に、明白に違反する行為となっているわけです。
 ジュネーブ条約のなかで、今の封鎖されている状態に、直接的に関わる条文があるのですが、法律条項ですのですこしわかりにくい文章になっているかも知れませんが、言っていることはすごく単純ですので、ちょっとご紹介させていただきます。占領国は──つまりこれはイスラエルということですね。「占領国は利用することが出来るすべての手段をもって、住民の食料、および衣料品の供給を、確保する義務を負う。とくに占領国は、占領地域の資源が不十分である場合には、必要な食料、医薬品その他の物品を輸入しなければならない」。こういう義務をイスラエルは負っているわけです。
 そして次に、「占領国は利用できるすべての手段をもって、占領地域における医療上、および病院の施設、および役務、ならびに公衆の衛生および健康を確保し、かつ維持する義務を負う」と書いてあります。これは私が作った文章ではなく、ジュネーブ条約の第五五条、五六条に明記されているものであり、イスラエルは自覚的に引き受けているわけです。つまり封鎖されることによって、こうしたジュネーブ条約上の本来守られるべき義務が、明らかに破られるという状態になってきている。こういう状態にあるわけです。
 そしてまた同時に、ジュネーブ条約は連座制の禁止と言いまして、集団懲罰をしてはいけないということを、明文で規定しております。例えばこの人民、人びとの軍事組織が行なった行為を理由にして、そこに住んでいる住民全員に対して懲罰を加えるというようなことはいけないということを、ジュネーブ条約は第三三条で明記しておりますが、封鎖状態に入りまして以降は、ジュネーブ条約で禁止されている連座制の禁止ということも、問題とされてきている、ということだろうと思います。
 実はその、すでに田浪さんたちがお訳しになったイラン・パペの本のなかに、今回の事態というのはもうすでに予測されていたことなのですね。イラン・パペはこういうふうに言っていたわけです。ガザ回廊のパレスチナ人の状況については──もう今回のように封鎖されることを言っているわけですが、「この問題が生じたのは、パレスチナ人が存在しているという問題を、巨大な監獄的な収容所のなかに閉じ込めることで解決できると、イスラエル人たちが考えたからでした。
 ガザ回廊全体は、イスラエル軍によって完全に包囲下に置かれたままであり、いつでも物資の封鎖や空爆や侵攻ができる、巨大な監獄状態にされている。私たちは今やこのイスラエルの計画は、そこに住むパレスチナ人を好き勝手に爆撃し、大量殺戮に着手できるように、イスラエル人、ユダヤ人入植者たちを連れ出すものであったことを知っています。この地域で単に民族浄化に止まらず、パレスチナ人に対する大量虐殺政策が採られたのは、ガザ地区の人たちの移送先がなかったからです」 こういうようなことが書かれているわけですね。つまり封鎖することによって、大量虐殺が行なわれているという、まさにこうしたことがイラン・パペによって記されていたわけですが、そろそろ目の当たりにしているという状況になってきています。
 今回の軍事侵攻について、三点目ですが、イラン・パペの話に続いているのですが、今日の集会の断幕がここにありますが、「イスラエルは占領とガザ侵攻をやめろ!」ということが書いてありますが、その下に英語で、「Stop Israeli Occupation And Aggression on Gaza」と書いてあります。実はあとでもご紹介いたしますが、国連の人権理事会が昨日、金曜日と、来週の月曜日に開かれるのですが、この緊急に開かれた会合のタイトルでも「Aggression」という言葉が使われているのですね。
 このAggressionというのは、国際法的には侵略となっていて、侵攻という日本語には武力を行使するという中立的な意味合いがありますが、侵略、Aggressionというのは明白な犯罪行為ということになるのでして、このように今回の軍事侵攻に対しては相当に犯罪性・違法性が強いということになってきます。とくに軍事目標を攻撃する場合に、軍事目標であればまだ容認されるとするルールがありますが、明らかに民間の施設を狙っている。あるいは軍事施設を狙っているのですが、過度に被害を生じさせている、というようなことがあって、軍事目標主義を逸脱している。そして無差別攻撃をしている、ということによって、これは国際法上の戦争犯罪に該当する行為が今回は繰り返されている。これまでもそうでしたが、今回は明瞭にそれが確認できる行為が繰り返されている、というふうに思います。
 戦争犯罪は、すべての国がこれを処罰する義務を負っています。日本もこの戦争犯罪を処罰しなければならない義務を、国際条約上持っているということになります。
 そして最後に四点目ですが、対応策になりますが、すでに安全保障理事会は停戦を求める決議を採択しておりまして、今申し上げましたとおり、国連の人権理事会も昨日と、そして明日ですね、緊急会合を開いて、今回の事態への対応策を決定することになるわけですが、少なくとも国連の人権理事会のもとに設置されている、パレスチナ問題の特別報告者というのがいるのですが、これはアメリカのリチャード・フォークナーが担当しているわけですが、彼に現地調査をさせるということは、これは最低限必要なことだと思います。
 そして同時に、国連総会を開いて、国連総会のもとで調査委員会を作って、現地に調査団を派遣するということ。これをしていき、事実を解明していくということを、国連のもとで行っていくということが、これからひとつとるべきことではないかと思います。これからこの方向で、働きかけをしていかなければならないと思います。
 それからもうひとつ、今回は重層的に戦争犯罪が行なわれてきております。そして封鎖のなかでも戦争犯罪が行なわれ、長年引き続く占領のもとでの戦争犯罪も、かなりあるわけです。こうしたものをそのまま放置するということによって、次の戦争犯罪が起こる。そういう観点から、不処罰の連鎖を絶つ。つまり重大な戦争犯罪については、きちんと事実を解明し、責任を取ってもらうということをやる必要があるわけです。
 実はそのためにできたのが、二〇〇二年に立ち上がった国際刑事裁判所ということでした。この国際刑事裁判所に、今回の事態を付託するということができるわけです。しかし問題は、付託することができるのは、安全保障理事会だけなのですね。安全保障理事会で今回の事態を付託するかどうかについては……おそらくアメリカが拒否権を発動し、事態を付託するということについては抵抗するかもしれない。しかし安全保障理事会によって、今回の事実を付託することができることは、間違いないわけです。
 そしてこれほどの戦争犯罪については、きちんと責任を取ってもらわないことには、不処罰の連鎖が続き、戦争犯罪が繰り返されていくということになる。国際刑事裁判所は、この不処罰の連鎖を絶つためにこそできたものなのですから、国際刑事裁判所に今回の件を付託せよというような声を上げるということは、これは非常に重要なことだろうと、私は思っております。
 そうでないと国際刑事裁判所が使われるような自体というのは、アフリカの事態だけに限定されてしまいます。コンゴであるとか、ウガンダであるとか、スーダン、中央アフリカの事態のみ、国際刑事裁判所は扱ってきたわけです。しかし今回のような事態、これも国際刑事裁判所が扱わないことには、いったい何のために国際刑事裁判所が存在しているのかという、疑念の声が大きくなっていくわけです。
 そのような観点からの、この戦争犯罪について、本来国際刑事裁判所はこういう場合においてこそ力を発揮すべきなのだという声を、あげるべきというふうに思っております。
 最後にもう一点、マスコミの報道につきましてですが、昨日『Japan Times』に『The Observer』というイギリスの新聞の記事が、採録されていたわけですが、いかにして今回、イスラエルを被害者として報道のなかで描き出すかということについて、イスラエルの外務省であるとか、諜報機関が、かなり長期間にわたって言説操作を行なっていたということが、このオブザーバーのなかの報道で明らかにされています。まさにそのとおりに、日本の報道機関でも報道がなされていて、その意味ではイスラエルの諜報機関の情報操作作戦ということは、ひじょうに巧くいっているということになるわけでしょう。
 しかしこの報道の仕方については、もう田浪さんの問題提起以降、鵜飼さんもおっしゃり、小倉さんも触れられましたが、まさにここにひとつの問題、重大な問題があるわけであって、この報道のあり方についてもキチンと、いかにその報道が歪んでいるかということについても声をあげることが必要だということを、ひとこと申し添えて話を終えたいと思います。

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