2009年2月21日
「スピークアウト&デモ:イスラエルは占領とガザ侵攻をやめろ!」実行委員会
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1998年7 月、世界中から160ヶ国の政府代表や国際機関、NGOがローマに集まり、「国際刑事裁判所のためのローマ規程」という条約が圧倒的な賛成多数で採択されました。ローマ規程は、国際法上もっとも重大な犯罪とされるジェノサイド(集団殺りく)、人道に対する罪、戦争犯罪などに関わる個人を、常設の国際法廷である国際刑事裁判所(ICC:International Criminal Court)が裁くことを可能にするものです。ICCは、重大な人権侵害は人類に対する犯罪であり、関係する国家だけではなく、世界中の国家や人々がその是正と防止を行うことができるという「普遍的管轄権」の考え方に基づいています。ICCは、02年7月に発足し、オランダ・ハーグに本部を置いています。 09年2 月現在の締約国は108カ国。日本も07年10月にICCに加入しています(105番目)。
[注]ちなみに、国際司法裁判所(ICJ)は、国家間の紛争を処理するため、1946年に設立された国連の司法機関。04年7 月には、イスラエルがパレスチナ・ヨルダン川西岸で建設する「分離壁」は国際法違反として、建設中止を求める勧告的意見を出した。
人類史上画期的なICCですが、その「普遍性」においてなお発展途上にあり、さまざまな制約を抱えています。ICCが犯罪を取り扱うことができる条件は、犯罪が行われた国または被告人の国籍がある国のいずれかが、ローマ規程の締約国であるかICCの管轄権を受け入れた場合が基本となっています。ただ、国連の安全保障理事会により付託された場合には、ICCは管轄権を行使できることになります。国連安保理の付託に基づいて08年7月、ICCのモレノオカンポ主任検察官が、ダルフール紛争におけるジェノサイドなどの容疑で、スーダンのバシール大統領の逮捕状を請求しました。そして、ICCは3月4日、「人道に対する罪」と戦争犯罪の容疑で、同大統領の逮捕状を発布しました。
現職国家元首に対する初めてのケースです。
現在、ICCはウガンダ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、中央アフリカ、スーダンの事例を扱っています。09年1月26日には、コンゴ紛争で子ども兵士を戦闘に駆り出したとして戦争犯罪に問われた、コンゴ民主共和国の武装勢力指導者であるトマス・ルバンガ被告の初公判が、ハーグのICCで開かれました。ICC発足以来、初めての本格的な公判となります。
一方、米国はブッシュ政権時代、米兵の訴追を恐れてICCを敵視してきました。しかし、ダルフールのケースでは安保理による付託を容認しました。オバマ新政権のスーザン・ライス国連大使は、「重要で信頼できる機関」としてICCの役割を評価する姿勢を見せており、行方が注目されています。
ガザ地区は1967年以来、ヨルダン川西岸地区とともにイスラエルによる占領下にあります。1949年に締結されたジュネーブ条約は、占領国に食料、医薬品などの十分な供給や、住民の衛生および健康の確保を義務づけています。しかし、イスラエルは既に20ヶ月に及ぶガザに対する封鎖を実施し、こうした義務の履行を怠っています。ガザは巨大な「野外監獄」と言うべき状態に置かれています。これは、明白なジュネーブ条約違反です。また、ジュネーブ条約は、連座制すなわち集団的懲罰を禁止しています。少数の戦闘員の行動を理由に、人口密集地の150万人の市民全体に封鎖という懲罰を加えることもまたジュネーブ条約に抵触します。
国連人権理事会のパレスチナ地域特別報告者であるリチャード・フォーク氏は、08年12月9日、イスラエルによるガザ地区封鎖は深刻な人権侵害を引き起こしているとして、ICCに同国首脳の訴追を検討するよう求めました。彼は「その過酷さと規模及び継続性」において「人道に対する罪」に匹敵する、と述べています(参照サイト: Transnational Institute: Israeli crimes against humanity in Gaza / Richard Falk interviewed by Michael Slate)。
08年12月27日に開始されたイスラエル軍によるガザへの大規模な軍事攻撃は、1,300人を超える死者と5,300人を超える負傷者をもたらした一方的な殺りくでした。以前にぎやかだった街並みは、「月面の風景」(アムネスティの調査チームの報告)のように平らにされてしまいました。「戦争犯罪の見本市」と言うべきほどに残虐行為が繰り返されました。明らかになっているそれらの一部には次のようなケースがあります。
民家、難民キャンプ、避難所、イスラム大学、学校、国連施設、モスク、警察署、病院、救急車、工場、漁船、養殖施設などに対する意図的な攻撃は、民間人と民間施設を標的とした無差別攻撃そのものであり、ジュネーブ条約違反の明白な戦争犯罪です。人口密集地に対する攻撃には到底使用すべきでない砲弾が繰り返し使用され、被害が拡大しました。
以下は明らかになったごく一部のケースです。
「残酷」で「不必要な苦しみ」を引き起こすとして慣習国際法で禁止されている兵器がイスラエル軍により使用されました。また、イスラエルが使用兵器名や成分などを情報開示しなかったため、医師は治療法がわからず、被害が拡大しました。 以下の残虐兵器は、リチャード・フォーク国連特別報告者が09年1月9日の国連人権理事会特別会合に提出した声明においてもふれられています。
09年1月12日、国連人権理事会はガザ侵略を討議する特別会合を開き、賛成多数で決議を採択しました。決議はイスラエルによるガザ攻撃を重大な人権侵害にあたるとして強く非難し、攻撃停止と撤退、封鎖の解除などを求めました。また、緊急に独立現地調査団を派遣することを決定しました。残念ながら日本政府はこの決議に棄権しています。決議に基づき、4月3日には旧ユーゴスラビア国際法廷の主任検察官を務めたリチャード・ゴールドストーン氏(南アフリカの判事でユダヤ人)が、現地調査団の団長に任命されました。
ガザには既にアムネスティ・インターナショナルやヒューマンライツ・ウォッチなどの国際人権団体やジャーナリストなどが入り、調査が行われています。また、2月10日には潘基文(パン・ギムン)国連事務総長も国連施設への攻撃に対する調査を行うと表明しています。イスラエルはこうした調査団のガザ立ち入りを無条件で認め、調査に協力すべきです。
イスラエル自身が、戦争犯罪を行ったという事実を自覚しています。イスラエル軍報道官室は報道機関に対して、ガザから戻った部隊司令官をインタビューする場合には顔をぼかしたり、身元がわかる情報を削除するよう命令を出し、検閲を強めています。また、イスラエル政府は1月25日、幹部や兵士が訴追された際には全面的な支援を保証する方針を閣議決定しました。さらに、海外で訴追される恐れがあるとして、軍幹部たちに海外旅行の自粛を指示しています。
トルコの検察官は、人権団体によるイスラエル指導者の逮捕要請を受けて、イスラエルの攻撃がジェノサイド、人道に対する罪などにあたるかどうかの調査を始めています。また、フランスの弁護士らのグループは、ICCへの告発と同時に、被害者家族及び戦争犯罪を犯したと思われるイスラエル軍人がICC締約国との二重国籍者である場合、国内法に則って各国で提訴する準備をしています(「週刊金曜日」09年2月13日号)。
イスラエルは非締約国であり、パレスチナが国家と見なされていないため、ICCの管轄権が及ぶには高い壁が存在します。しかし、ICC検察部は、パレスチナ当局をはじめ、個人やNGOなどによる210通を超える訴追申請を受けて、イスラエルの攻撃が戦争犯罪に該当するかどうかの「予備審査」を始めています。モレノオカンポICC主任検察官は、「パレスチナ自治区にICCの管轄権を認める法的な力があるかどうかを分析する」と述べています(同「週刊金曜日」)。パレスチナがローマ規程上の国家とみなされ、予備審査で妥当と判断されれば、困難と思われたICCでの審理の道が開ける可能性があります。
現状のままでも、スーダンのケースと同様に、国連安保理による付託という方法によってイスラエルをICCに訴追することは可能です。いずれにしろ、イスラエルの犯罪をICCで裁かせるためには、国際世論の強力な後押しが不可欠でしょう。「ガザで行われた巨大な戦争犯罪を裁かずして、ICCの存在意義はない」(阿部浩己さん)。「不処罰の連鎖」を断ち切り、正義を実現するために、世界の民衆の力こそが問われているのです。
ICC締約国である日本政府は、国連安保理非常任理事国でもあります。積極的なイニシアチブを発揮させるために、日本の市民の役割も重要になっています。ガザにおける戦争犯罪を裁かせ、封鎖と占領を一刻も早くやめさせましょう。
日本政府が、ガザへの現地調査団の派遣とイスラエルによる戦争犯罪をICCで裁くために積極的に動くよう、外務省や各政党に働きかけて下さい!
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(2009年4月12日更新)
【文書作製】
「スピークアウト&デモ:イスラエルは占領とガザ侵攻をやめろ!」実行委員会
連絡先:speakout.demo@gmail.com